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白薔薇と黒薔薇の箱庭

気ままに更新。 気が向いたら自作の物を更新。 北の国の学生さんが送る日常日記。

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待っているから

「待っています」

だから かならず

帰ってきてください


彼岸花が揺れている


赤い赤いしるべ
いずこの人を照らす灯


ひらりひらりと空中を舞った赤い紙。
それは招待状。
戦場からの黄泉の切符。

「そんな、どうして‥‥!」

悲鳴のような嘆きのような声が口から漏れる。
ただただ「なぜだ」と「どうして」と

「静代、どうしましたか?」

なかなか戻ってこない己の妻を心配して夫が出できた。

「あぁ、信也さん。これが‥『赤紙』が。」
「とうとう私にも来たのですね。徴兵令が。」

静代の手の中にあるのは『赤紙』
国が徴兵を行う際に、徴兵される男がいる家へと送られる手紙。
つまり、『赤紙』という名の『死刑宣告』。

時は第二次世界大戦。
多くの国が戦っている中、日本軍は最初こそ威勢がよかったもののその勢いは次第に衰えていき、今は防戦一方であった。
同盟軍が諸国に負けるのも時間の問題だった。

「静代、泣かないでください。」
「ですが信也さん。死ぬかもしれないのですよ。」

まだ結婚して1年もたっていないと言うのに、夫は戦場に行く。
もしかしたら死ぬかもしれない。
そうしたら、私は、独りになる。

「一人は嫌です。置いていかないでください。」
「それはいけません。貴女はここにいてください。」
「ですが‥!!」

有無を言わさぬ声音に顔を上げれば穏やかに笑う信也の顔があった。
なにも反論できなくなる微笑み。
菩薩のような温かい微笑みがあった。

「待っていてください。必ず戻ります。だからここにいてください。」
「信也さん、 わかりました。待ってます。ずっとここで待ってます。」

二人が約束をした数日後、信也は軍のほうへと旅立った。



戦争は敗戦の色をより濃くしていった。
日本軍は日々苦しくなっていく状況に最後の手段を投じた。
そして組織されたのが「神風特攻隊」だった。
神風特攻隊の隊員は片道の分しかガソリンの入っていない戦闘機に乗り込み、敵の戦闘機に体当たりし敵を巻き込み自爆していった。
そしてその一人に信也もなることとなった。
その知らせは静代の元にも届き、静代は三日三晩泣きはらした。




「よく聞け!これより貴様等はこの戦闘機に乗り、敵国軍を巻き添えにして死にゆけ!!お国のために一人でも多くの敵兵を巻き添えにしてこい!!」
「はっ!!」
次々と同僚たちが戦闘機に乗り込んでゆく。
今、同じ釜の飯を食った仲間が死ににゆく。
そして私も死ににゆく。

静代は怒っているでしょうか。怒っているでしょうね。
独りにしないと言ったのに、私は約束を破ってしまいましたからね。

信也は戦闘機のシートに滑り込み、扉を閉めた。
この世界の空気を感じられるのも後少し。
めい一杯空気を吸う。
エンジンをかけてハンドルを握る。
動き出し始めた戦闘機。素早く移り変わる景色。
眼前に迫る敵の飛行部隊。

静代の元には戻れないでしょうが、私がここでひとつでも巻き添えにできたら貴女の命が助かるというのであれば私は喜んで死にましょう。

「ごめんなさい、静代。」

空中でひとつ戦闘機が近くにいた戦闘機を巻き込んで爆発した。





さくさくと赤い花の上を歩く女性がいた。そして岸辺にしゃがみ込んで近くにあった石の前に花を置いた。

「信也さん。もうあれから10年立ちました。」

簡単な石造りの墓の下に彼の骨は埋まっていない。
空で爆発した彼の遺骨は海だけが居場所を知っているだろう。
彼が「戦死した」と手紙をうけて五日後、日本は敗戦した。

「日本は負けました。戦争ももう終わりました。皆が前を向いて一日一日を生きています。。」

兵がそれぞれの町に引き上げた時、静代は駅へ行った。
もちろん信也はいなかった。
あちらこちらで再会を喜ぶ声が響く中で静代は声を押し殺して泣いた。信也はいないとみとめなきゃいけなかったから。

「信也さん、置いていくなんてヒドイですよ。
独りにしないでって言ったじゃないですか。」

ぼろぼろとこぼれる涙それをサァァッと風がさらった、その時懐かしい声が耳に届いた。

『静代、時間がかかりましたが帰ってきましたよ。
これからはずっと側にいます。』

振り向いても誰もいなかった。
これは彼岸花がみせた幻覚かもしれないだけど温度は信也の暖かさだった。

「おかえりなさい、信也さん。」


赤い赤いしるべ
いずこの人を照らす灯

彼岸花が
揺れている
ここが道だと
知らせるために

彼岸花が
揺れている
早く帰ってこいと
思い人の声をのせ

赤い赤いしるべ
回帰の道を照らす灯

彼岸花が
揺れている

彼岸花が
揺れている

さぁ、はやく
逢おう

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